クラウド会計は完璧じゃない？そのメリットとデメリットを徹底比較

クラウド会計とは？基本的な仕組みと特徴

クラウド会計の基本的な概念

　クラウド会計とは、インターネットを通じて利用する会計ソフトのことで、データがクラウドサーバー上に保存されるのが特徴です。パソコンやスマートフォンなどのデバイスからアクセス可能で、専用のアプリやウェブブラウザを介してリアルタイムに会計処理を行える仕組みになっています。このシステムの導入により、地理的な制約なく作業を進められる点が多くの企業に評価されています。

従来型会計ソフトとの違い

　従来型の会計ソフトは、ローカル環境にインストールして利用するのが一般的で、データは各端末上に保存されていました。そのため、特定の端末でのみデータにアクセスできるという制約がありました。一方、クラウド会計ではデータがクラウドサーバー上に保存されるため、複数のデバイスや拠点から同時にアクセス可能です。さらに、自動仕訳機能や定期的なアップデートがクラウド上で行われるため、導入後のメンテナンス負担が軽減されることも大きな利点です。

クラウド会計の普及背景と市場動向

　クラウド会計が普及した背景には、技術進化によるクラウドインフラのコスト削減、リモートワークの拡大、そして効率的な業務運用を求める企業のニーズがあります。また、法改正や制度変更への迅速な対応が求められる中、クラウド会計ソフトは自動でアップデートされる特性を持つことで注目されています。国内では2023年に施行されたインボイス制度がクラウド化を後押ししており、今後さらに需要が高まると予測されています。グローバル市場でもクラウド会計ソフトは年々シェアを拡大しており、導入費用の観点でも中小企業にとって手頃な選択肢となっています。

クラウド会計のメリット

業務効率化と自動化による省力効果

　クラウド会計は、従来の会計ソフトとは異なり、自動化された機能が豊富に備わっているため、業務効率化が期待できます。例えば、自動仕訳機能や銀行口座との連携機能を活用することで、手入力の必要が減り、人的ミスも抑えることが可能です。このような機能は特に、取引量が多い企業にとって大きな助けとなります。また、繁忙期に経理担当者の負荷を軽減できるため、業務全体の生産性向上にも貢献します。

コスト削減の可能性

　クラウド会計ソフトの導入は、コスト削減の可能性を秘めています。従来型の会計ソフトではインストール型のソフトウェアやその更新、保守費用が必要でしたが、クラウド会計では定額制の料金体系が多く採用されています。また、サーバー設備の設置や維持が不要になることで、設備投資や運用管理コストも抑えることができます。そのため、導入費用の面でも特に中小企業には向いていると言えるでしょう。

リモートワーク対応の強化

　リモートワークへの対応を強化したい企業にとって、クラウド会計は大きなメリットをもたらします。インターネット環境さえ整っていれば、自宅や外出先からでもシステムにアクセス可能で、複数人での同時作業もスムーズに行えます。これにより、作業の効率が高まるだけでなく、リモートでの業務管理も円滑化されます。特に、地理的に離れた拠点間での経理業務を統一的に行いたい企業にとっては、クラウド会計の利便性は非常に有効です。

データの安全性とバックアップの利点

　クラウド会計は、データの安全性が高いことも特徴の一つです。多くのクラウド会計サービスでは、データセンターで厳重に管理され、定期的なバックアップが行われています。このため、万が一のハードウェアトラブルや災害時でも、データを迅速に復元することが可能です。また、システム自体が最新のセキュリティ技術に基づいてアップデートされるため、従来のシステムよりも安全性が高められている点もメリットと言えるでしょう。

クラウド会計のデメリット

インターネット依存による障害リスク

　クラウド会計はインターネットを通じてアクセスする仕組みのため、ネットワークに依存する部分が大きいです。そのため、回線トラブルやサーバーダウンが発生した際には、会計処理が一時的に中断されてしまうリスクがあります。特に、期末決算時期や税務申告の締め切りが近い時期にネットワーク障害が発生すると、業務に大きな影響を及ぼす可能性があります。このようなリスクに備えるためには、インターネット接続の安定性を確保することや、障害発生時の代替手段を検討しておくことが重要です。

セキュリティ上の懸念と対策

　クラウド会計を利用する際には、データがインターネット上に保存されるため、セキュリティリスクに対する不安がつきものです。サイバー攻撃やデータ流出の可能性は企業にとって大きな課題となります。ただし、多くのクラウド会計ソフトは高度なセキュリティ対策を講じており、暗号化技術や多要素認証を採用しています。それでも、ソフトウェア側だけに頼るのではなく、企業自身も強固なパスワードの設定や適切なアクセス権限の管理など、社内で実践できるセキュリティ対策を徹底させる必要があります。

ランニングコストとコスト管理の課題

　クラウド会計ソフトは、多くの場合月額または年額で課金されるため、継続的なランニングコストが発生します。従来型の買い切り型ソフトとは異なり、長期的な利用を考えるとコストが割高になる場合があります。さらに、ソフトウェアによっては追加機能や容量拡張に対する課金が必要となることがあり、最終的なコストが当初の見積もりを超えてしまうケースも見受けられます。このような事態を避けるためには、導入前に十分なコスト試算を行い、どのプランが自社の業務規模に適しているか慎重に検討することが肝要です。

カスタマイズの制約

　クラウド会計ソフトは、多くの企業ニーズに対応できるよう事前に設計されていますが、完全に自由なカスタマイズが難しい場合があります。特に、特殊な業務フローを持つ企業や、従来のシステムと統合が必要な場合には、標準機能だけでは十分に対応できないことがあります。その結果、既存業務に無理やり合わせて運用方法を変えざるを得ないケースもあるでしょう。この問題を回避するには、導入前にソフトウェアの機能を十分に検証し、自社の業務ニーズに合致しているか確認することが重要です。また、必要に応じてソフトウェア提供企業と連携し、追加カスタマイズの可能性を相談するのも一つの方法です。

クラウド会計の導入失敗例とその原因

導入目的の不明確さが招く失敗

　クラウド会計ソフトを導入する際のよくある失敗の一つに、導入目的が明確でないことが挙げられます。クラウド会計には業務効率化や会計処理の自動化などのメリットがありますが、それを効果的に活用するには、社内で明確な導入目的を共有することが不可欠です。

　たとえば、「経理の負担軽減」や「リモートワーク対応の強化」という具体的な目標の設定がない場合、システムを導入しても現場では従来のフローが重視され、結果として業務が効率化されないというケースが見られます。目指すべき成果を共有することで、クラウド会計ソフト導入のメリットを最大化することが可能です。

適切なソフトウェアを選定しないケース

　クラウド会計ソフトには多くの種類があり、それぞれ機能や料金体系が異なるため、自社に合ったシステムを選定することが重要です。しかし、業種や業務フローに適していないソフトウェアを選んでしまうと、期待した効果が得られないどころか、効率の低下やコストの増加といったデメリットが生じる可能性があります。

　たとえば、取引量の少ない小規模事業者が高機能なシステムを選んでしまうと、費用対効果が見合わなくなることがあります。逆に、複雑な会計処理を必要とする企業がシンプルなソフトを採用すると、必要な業務がこなせず不便に感じるでしょう。クラウドでできること、できないことを理解し、自社のニーズに応じた選定が求められます。

導入後のサポート不足による問題

　クラウド会計の導入がうまくいかない原因には、導入後のサポート体制の不足も挙げられます。システムの導入はスタートに過ぎず、日々の運用やトラブル対応において適切なサポートが不可欠です。

　特に初期段階では、ソフトウェアの操作に戸惑うことが多く、社員からの質問やエラー解消の要望が増えることがあります。これらを放置すると、不満が蓄積され、従業員がクラウド会計を使いこなせない要因となるでしょう。提供元や外部コンサルタントの支援を活用し、適切なサポートを受けることが導入成功の鍵となります。

チーム全体の理解不足と教育の必要性

　クラウド会計ソフトの導入は、経理部門だけでなく、社内全体での協力が必要です。しかし、スタッフ全体に新システムに関する知識やスキルが浸透していない場合、導入後に混乱が起きることがあります。特に、クラウドという新しい仕組みに不慣れな社員が多い場合、業務効率の低下につながる可能性が高まります。

　これを回避するためには、社内教育や導入後の定期的なトレーニングが重要です。また、システムの操作手順やメリット・デメリットを全社員で共有し、全員が同じ方向を向いて運用に取り組むことが大切です。適切な教育体制を構築することで、クラウド会計をスムーズに運用できる環境を整えられるでしょう。

クラウド会計を成功に導くポイント

自社に合ったシステムの選び方

　クラウド会計を成功に導くためには、まず自社の業務内容や運用状況に適したシステムを選ぶことが重要です。たとえば、取引量が多い企業であれば、処理速度や自動化機能が優れたソフトウェアを選定する必要があります。また、リモートワークを推進している場合、どこからでもアクセス可能であるクラウド会計の特性が真価を発揮します。しかし、選定の際には想定される導入費用やランニングコストも慎重に見極める必要があります。デモ版を活用し、実際の運用シミュレーションを行うことで、最適なシステム選びが可能となります。

セキュリティリスクへの備え

　クラウド会計はインターネットを基盤にするため、セキュリティリスクに対する備えが不可欠です。特にサイバー攻撃やデータ漏洩に対する懸念が挙げられるため、データの暗号化や多要素認証の導入が推奨されます。また、クラウドベンダーが提供するセキュリティ体制やバックアップ機能を事前に確認し、その信頼性を評価することも大切です。加えて、社内でもアクセス権限を適切に設定し、不必要な権限を最小限に抑えることでリスクを軽減できます。

現状の経理課題の洗い出し

　クラウド会計ソフト導入を検討する前に、自社が抱える経理業務の課題を明確にすることが必要です。例えば、手作業の多さによる会計処理の負担増や、経理データの管理が非効率的である場合など、それらの課題を具体的に把握することで、クラウド会計ソフトの導入目的が明確になります。この過程で、従来の業務フローとクラウド会計の特性を照らし合わせ、改善すべき点がはっきりするでしょう。このようなプロセスを省くと、導入後に「思ったようなメリットを得られない」といった失敗を招く可能性があります。

導入後の運用プランと教育体制の構築

　クラウド会計を導入した後、円滑に運用するためには明確な運用プランと教育体制の構築が不可欠です。新しいシステムに完全に移行する前に、段階的な導入計画を立てることで、トラブルを最小限に抑えることができます。また、経理担当者や関係部門の社員に対して適切なトレーニングを実施し、システムを使いこなせるようにすることも重要です。さらに、改善点やトラブル時の対応策をまとめた運用ガイドラインを作成し、全員が共通の理解を持つ環境を整えることが成功への鍵となります。

投稿者プロフィール

武石大介: 2017年に公認会計士試験に合格し、監査法人で複数年にわたって監査経験を積んできました。また公認会計士試験の合格前後に2社設立と3つの新規事業を行った経験があります。1社事業は売却、1社はクローズしました。

現在は独立し、会計士としての専門知識と自身の起業・事業経験を活かし、会計・財務支援をはじめ、起業・経営に関するアドバイスも行っております。
具体的には、資金調達・補助金申請サポート、財務分析、事業計画の作成支援、記帳代行など、実務的かつ実践的な支援が可能です。