株式会社と合同会社とは?基本的な違い
株式会社と合同会社はどちらも法人格を持つ会社形態ですが、設立方法や運営の仕組みにおいて大きな違いがあります。それぞれの特徴を理解し、自分の事業に合った形態を選ぶことが重要です。
株式会社の概要と特徴
株式会社は、日本で最も一般的な法人形態で、主に資金を調達するために株式を発行する仕組みが採用されています。株主が出資者として所有権を持つ一方で、経営は取締役が担当することが多く、所有と経営が分離している点が特徴です。このため、株主総会の開催や意思決定の過程が法的に定められており、運営が透明性高く行われます。
株式会社のメリットとしては、「社会的信用度が高い」「資金調達がしやすい」などが挙げられます。一方、設立費用が高額である点や、決算公告の義務があることがデメリットとなります。株式会社の設立登記には、登録免許税や公証人役場での定款認証が必要であり、これが設立コストを押し上げています。このように、より規模の大きな事業や外部資金の活用を目指す方に向いている形態です。
合同会社の概要と特徴
合同会社は、2006年5月の会社法施行により新設された法人形態で、設立費用が安価で手軽な点が特徴です。出資者である社員が直接経営を行うため、所有と経営が一致しており、迅速な意思決定が可能です。株式会社のような株主総会の義務や決算公告義務がなく、運営コストを抑えやすい点もポイントです。
メリットには、「設立費用や運営コストが低い」「経営の柔軟性が高い」といった点がありますが、デメリットとしては、「社会的信用度が低い」「株式発行による資金調達ができない」ことが挙げられます。合同会社は、小規模なビジネスやスタートアップの法人形態として人気があります。
所有と経営の違い:2つの形態の構造
株式会社と合同会社では、所有と経営の関係が異なります。株式会社では、株主が所有権を持ち、取締役が経営を担当します。この切り分けにより、投資家である株主が経営を直接行わず、専門的な知識を持つ経営者に任せることが可能です。一方、合同会社では、出資者である社員が自ら経営を行います。このため、自分の意思に基づいた経営が行いやすく、事業がスピーディーに進められる点が特徴です。
この違いにより、規模の大きな事業や外部からの出資を受けたい場合には株式会社が、少人数で迅速な意思決定を望む場合には合同会社が適しています。
設立形態の選定基準:どちらが向いているか?
法人形態を選ぶ際には、「事業規模」「資金調達の必要性」「社会的信用度」「運営コスト」を総合的に考慮することが重要です。たとえば、外部投資家を迎え入れる予定や、将来的に上場を目指す場合は株式会社が向いています。一方で、設立費用を抑えながら自由度の高い経営を行いたい場合には合同会社が適しています。
また、社会的信用度を重視する場合や、取引先から株式会社としての登記を求められる場合もあるため、周囲の状況も考慮すべきです。どちらが簡単かという観点では、合同会社の設立登記がシンプルで短期間で完了する傾向があります。
それぞれの法人形態の人気動向
株式会社の設立件数は2023年の時点で約10万件と、全体の会社設立の中でも圧倒的に多い数を誇ります。合同会社は約4万件と少ないものの、その手軽さからスタートアップや少人数による経営を目指す企業での採用が増加傾向にあります。また、個人事業主が法人化する際に、まず合同会社として設立を行い事業が軌道に乗り次第、株式会社へ移行するケースも増えています。
このように、株式会社と合同会社はそれぞれの特性やニーズに応じた選択が進んでおり、設立の背景や目的に応じて適切な形態を選ぶことが重要です。
設立費用を比較:株式会社と合同会社のコスト差
登録免許税や定款認証の違い
会社設立における初期費用の中でも、「登録免許税」と「定款認証」は必ず発生する重要な項目です。株式会社の場合、登録免許税は資本金の額に関わらず最低15万円が必要です。また、株式会社では定款を公証人役場で認証する必要があるため、公証人手数料として5万円、さらに印紙代として4万円(電子定款を活用した場合は不要)もかかります。一方、合同会社の登録免許税は6万円と株式会社に比べて大幅に安く、定款の認証も不要なため公証人関連の費用は発生しません。このように、「株式会社の設立費用は合同会社よりも高い」という点が際立っています。
電子定款を活用した場合の費用削減
定款を紙ベースで作成すると、株式会社の場合は定款への貼付印紙代として4万円の費用が必要ですが、電子定款を利用することでこの費用を完全に省くことが可能です。電子定款は、専用のソフトウェアを使用してPDF形式で作成されるため、印紙代が不要になります。しかし、電子定款を利用するには電子証明書を取得する手間や知識が必要です。このため、専門家に依頼するケースも多くなりますが、長期的に見れば費用削減につながりやすい手法といえます。この方法は特に「株式会社と合同会社の設立登記コストを少しでも抑えたい」と考える方におすすめです。
その他の初期費用の違い
設立の際には、印鑑作成費用や資本金の準備など、登録免許税以外にも大小の費用が必要です。例えば、法人用の実印作成には一般的に1万円〜数万円程度の費用がかかります。また、会社を設立する登記申請時には登記簿謄本や印鑑証明書の発行手数料が必要です。株式会社と合同会社を比較すると、これらの追加費用に大きな差はありませんが、やはり「定款認証が不要な分、合同会社のほうが全体の初期費用が安い」といえるでしょう。設立形態を選ぶ際には、これら細かい部分のコストも見逃さないようにすることが重要です。
設立に必要な期間と手続きのわかりやすい流れ
会社の設立には、いくつかの手順を踏む必要がありますが、株式会社は合同会社に比べてやや複雑です。株式会社の場合、定款の作成と認証、出資金の払い込みなどのステップが完了した後に登記申請を行います。これには通常1ヶ月ほどの期間が必要です。一方、合同会社では定款認証の手間が省けるため、全体の手続き期間は3週間程度と比較的短期間で完了します。加えて、合同会社は出資者と経営者が一致しているため、設立に関わる意思決定も迅速に行えます。そのため「設立手続きが簡単で短期間で終わるのはどちらか?」という観点では、合同会社が選ばれることが多いでしょう。
運営コストの比較:経営後にかかる費用の違い
会社運営にかかる固定的なコスト
株式会社と合同会社では運営にかかる固定費用に違いがあります。まず、株式会社は株主総会の開催が法律で義務付けられています。このため、議案書や議事録の作成など一定の作業負担が発生し、その際に外部の専門家に相談する場合もあるため、コストが高くなる傾向があります。一方、合同会社では株主総会が不要で、意思決定が出資者間で簡潔に行えるため、このような手続き関連のコストは発生しにくいのが特徴です。
また、決算公告の義務も株式会社にはありますが、合同会社ではその義務がありません。そのため、公告費用の負担がない合同会社の方が経済的と言えるでしょう。一方で、社会的信用度を重要視する事業では決算公告が果たす役割も考慮する必要があります。
株主総会や重任登記の手続きと費用
株式会社は毎年株主総会を開催し、取締役の重任や役員の変更時にはそれに伴う登記が必要です。この登記手続きには法定の手数料がかかり、通常1万円程度の費用がかかります。また、定款変更を伴う場合にはさらに追加の登記費用が発生することがあります。
合同会社では、取締役制度自体が存在しないため、これに関連する継続的な登記費用はありません。意思決定が柔軟かつ簡便である点が合同会社の大きなメリットです。ただし、資本増減や住所変更などの登記は必要になるため、運営中に発生しうる特定のコストも確認しておく必要があります。
対外的信用度が与える影響とコストの関係
株式会社は社会的信用度が高く、企業間取引や金融機関からの資金調達においても有利になるケースが多いです。しかし、その信用度を維持するために時間とコストを要する場合も少なくありません。特に公開会社では定期的な決算公告や株主対応が求められるため、コストが付随する点がデメリットとなります。
一方、合同会社は設立費用や運営コストが低いため、スタートアップや小規模事業に向いていますが、対外的信用度は株式会社と比較して低い傾向があります。このため、長期的な成長や規模拡大を視野に入れた場合には、対外的なイメージ向上のために追加費用を投じる必要性が出てくる場合があります。
税務面での違いと節税対策
税務面において、株式会社と合同会社に特段大きな差はありませんが、収益の分配方法により税負担に差が出るケースがあります。株式会社は役員報酬の設定が可能であり、節税対策として役員報酬を経費扱いにすることができます。これによって法人税を抑える方法が採用されることが一般的です。
一方、合同会社では出資者が給与を受け取るという形式をとらないため、利益がそのまま出資者に分配されます。このため、所得税の負担増加につながる場合があります。ただし、合同会社は意思決定の柔軟性が高い点を活かし、経営戦略に合わせた費用配分を行うことで、ある程度の税務負担をコントロールすることも可能です。
選択のポイント:初めて法人を設立する人へのアドバイス
スタートアップに適した法人形態の選び方
初めて会社設立を考える際に、株式会社と合同会社のどちらを選ぶべきか悩む方は多いでしょう。それぞれにメリットとデメリットがあるため、事業の性質や目的に応じて選ぶことが重要です。もし社会的信用度や将来的な資金調達が重要であれば、株式会社がお勧めです。一方で、少人数や迅速な意思決定を重視するスタートアップには合同会社が向いています。
特に設立費用を抑えたい方には合同会社が魅力的です。登録免許税や定款認証のコストが株式会社に比べて格段に安いので、初期投資の負担を軽減できます。一方で、対外的信用度や上場の可能性を重視する事業では、株式会社の選択を検討するのが良いでしょう。
目的別に見る適切な法人設立の考え方
会社設立の目的によって、適切な法人形態は異なります。個人事業主から法人化を目指しつつコストを抑えたい場合は合同会社が最適です。合同会社は設立手続きが比較的簡単で、短期間で設立することが可能です。また、出資者がそのまま経営に携わるため、意思決定プロセスもスムーズです。
一方、外部から多額の資金調達を希望する場合や、社会的信用度を高めたい場合は株式会社がおすすめです。特に投資家や金融機関からの資金調達を視野に入れている場合、株式会社の仕組みは非常に有利に働きます。また、会社を大規模組織として発展させる予定のある場合も株式会社が選ばれる傾向にあります。
法人形態を途中で変更する際の注意点
事業が成長するにつれ、設立時の法人形態が事業の発展に合わなくなる場合があります。しかし、法人形態を途中で変更することにはいくつかの課題が伴います。例えば、合同会社から株式会社へ変更するケースでは、新たに株式会社を設立する手間と費用がかかります。さらに、現在の事業に関連する契約や利害関係者への説明も必要になり、手続きが煩雑になることがあります。
また、株主構成や経営体制を見直す必要があるため、むやみに変更を行うと関係者とのトラブルを引き起こす可能性もあります。法人形態を変更する際は、専門家に相談し、事前に十分な準備を行うことが重要です。
専門家への相談の必要性と費用感
会社設立において、自分で全てを行うことも可能ですが、初めて設立する方には専門家への相談を強くお勧めします。司法書士や税理士、公認会計士などの専門家は、効率的な設立手続きや税務面でのアドバイスを提供してくれます。特に、株式会社と合同会社の設立登記における違いや、それぞれの利点・欠点について具体的なアドバイスを受けることができます。
専門家への依頼費用は一般的に10万~20万円程度とされていますが、手続きのスムーズさやミス防止の安心感を考えると、価値のある投資と言えます。自分で行う場合には登記書類の書き方や手続きの流れを慎重に確認する必要がありますが、これに時間を取られることを避けたい場合には、専門家に依頼するのが合理的です。
投稿者プロフィール

- 2017年に公認会計士試験に合格し、監査法人で複数年にわたって監査経験を積んできました。また公認会計士試験の合格前後に2社設立と3つの新規事業を行った経験があります。1社事業は売却、1社はクローズしました。
現在は独立し、会計士としての専門知識と自身の起業・事業経験を活かし、会計・財務支援をはじめ、起業・経営に関するアドバイスも行っております。
具体的には、資金調達・補助金申請サポート、財務分析、事業計画の作成支援、記帳代行など、実務的かつ実践的な支援が可能です。
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